アニマルパスウェイは道路や線路の上に架けるのが基本なので、人や車の安全性の確保とメンテナンスフリーが重要です。加えてコスト削減といった人間側の事情もありますが、利用動物にとっての安全性や使いやすさにも配慮した設計になっています。
形状と材料の検討
模型による検討の結果、三角形のフレーム・メッシュの床・ワイヤー等から成るつり橋の形状に決定しました。
材質は、枝やつる等が動物に好まれそうですが、使っているうちに腐って道路に落ち事故が起きる可能性があるので丈夫な材料で構成したものにする必要があります。
企業側の提案に対し、キープやまねミュージアムでひとつひとつ検証を行いました。
研究用に飼育しているヤマネに参加してもらい、約1年をかけて様々な実験データを収集しました。
< 実験項目 >
- ワイヤーの太さや材質は?
- メッシュの粗さや道幅は?
- パスウェイの途中に設ける退避所の形状や材質は?
また、寒冷地である清里の気候条件に合わせた対応も必要です。
上に雪が積もると荷重がかかるので、その雪を少なくするにはどうしたらいいか、つららが道路に落下する危険をどう防止すればいいかなどの様々な問題点と解決策が時間をかけて協議されました。
全長約10mの実証機で積雪時の状況を確認し、北杜市1号機では雪と風を考慮した構造計算を行っています。
動物の生態に配慮した工夫
待避スペースの設置
大きな壁を持たない開放的なつくりは、閉所を嫌うリスにとっては好都合であり、メンテナンスフリーの観点でも有用です。ただしヤマネやヒメネズミには天敵の猛禽類に襲われる危険性が高まるため、対策が必要です。
そこで途中数カ所に金属の板で覆った待避スペースを設けました(写真赤枠部)。
モニタリングでその利用を確認しています。
移動用ロープの設置
ヤマネは普段森の中で木の枝に逆さまにつかまって移動することが多いため、三角形の天井付近に移動用ロープを渡しています。ロープで移動中のヤマネを天敵から隠すため、パスウェイ上部に小さな屋根も取り付けました。
モニタリングでロープによる移動の様子も確認しています。
滑り止めの設置
支柱には薄い杉材を巻き付け、動物がつかまりやすいようにしています。
パスウェイへの誘導
樹木からパスウェイへ、枝やロープなどを渡し、パスウェイ内部に動物を誘導しています
パスウェイの支柱付近に、利用動物が好む樹種を植樹したり、巣箱を置いてパスウェイの利用を促しています。
巣箱はヤマネやヒメネズミのほか、野鳥の利用も確認しています。
パスウェイの完成からしばらくの間は、人工的に餌付けをして野生動物にパスウェイの存在を告知します。餌付けは定常的な利用が確認できるようになるまで続ける必要があります。
導入路の重要性 〜リス利用のための改良工事〜
北杜市1号機の設置から2年が経過したところで、ヤマネ・ヒメネズミは頻繁に出現しましたが、リスの利用を一度も確認できませんでした。パスウェイ周辺にはリスの食痕があり、なぜ利用しないのか原因は不明です。そこでいくつかの改良工事を行いました。
リスにとって三角形フレームが小さ過ぎないか、大きさを再検討しました。研究者の意見を参考に大きさの違う模型をいくつか作り、野外で実験を行いました。
結果的にはどの大きさでもリスの利用を確認しました。
実証機でもリスは複数回確認されており、大きさの影響は少ないと判断しました。
パスウェイに比してモニタリングカメラが大きく、橋の入口を狭めていることが原因ではないかという意見も出ました。カメラ位置を変更する工事を行い、入口の前のスペースを開けました。 (写真左が改良前、右が改良後)
最後に、周辺の樹木からパスウェイ内への導入に着目し、リスが渡りやすい道を新たに整備することになりました。耐久性やコストを考慮し、材料には電気の配線工事などで使用する樹脂製角型管(カクフレキ)を採用しました。樹木の枝からパスウェイの床まで渡してみると、リスが現れ、更に想定外のテンの利用まで確認し、導入路の重要性を改めて知る結果となりました。